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本文の読み上げは合成音声です。末尾の「佐藤将人」のみ、本人の過去のRiverside収録から使用しています。今回のための新規録音ではありません。
「ゲームはそろそろ終わり」
「その動画は見ないほうがいい」
「SNSは、もう少し大きくなってから」
子どものことを考えて決めたルール。
その場では守ってくれたとしても、それで本当にうまくいったと言えるのだろうか。
見えないところで続けているかもしれない。
大人になって自由を得たとき、禁止されていた時間を取り戻すように夢中になることもあるかもしれない。
もちろん、だから何でも自由にしてよい、という話でもありません。
- 今、目の前の危険から守ること
- 将来、自分で選べるようになること
この両方を考えたとき、ちょうどいいルールはどこにあるのでしょうか。
子どもの話から始まりますが、大人や社会、そして自分自身にもつながる話だと思っています。

目次
先に、2026年10月19日時点での佐藤の考え
ルールのよしあしを、「今、言うことを聞いたか」だけで判断したくない。
これが、今の私の考えです。
すぐに止めなければならない危険もある。
一方で、少しずつ経験しながら、自分で判断できるようになってほしいこともある。
同じ「禁止」でも、意味は変わるのではないでしょうか。
- 何を守るために制限するのか。
- いつまで、どのくらい制限するのか。
- どんな言葉で伝えるのか。
そして、研究で確認できたことと、私の経験から考えたことは分けたい。
まだ確かめられていない考えは、佐藤の仮説として残しておく。
そのうえで、あとから見直せるようにしたいと思っています。
子どものSNSを制限すれば、それで安心なのか
子どものSNS利用を制限する動きが、海外で進んでいます。
オーストラリアでは、すでに制度が始まっています。
2025年12月10日から、対象のSNSについて、16歳未満がアカウントを持たないよう、事業者に合理的な措置を求めています。
子どもや親を罰する制度ではありません。(1)
EUでは、新しい制度が提案されています。
2026年9月、欧州委員会は、年齢に応じたSNSへのアクセス制限などを盛り込んだ「EU KIDS Act」を提案しました。
確認時点では、成立済みの法律ではなく、提案の段階です。(2)
子どもを守ろうとする目的は理解できます。
ただ、私が気になるのは、その先です。
大人は使っている。友達も使っているかもしれない。
そこに楽しさや、人とつながれる場所がある。
「使ってはいけません」と決めたとき、その使いたい気持ちは、どこへ行くのでしょうか。
ここからは、佐藤の仮説です。
一部の子どもは、抜け道を探すのではないか。
使わなくなるというより、大人の見えない場所で使うようになることもあるのではないか。
これは、今の規制がすでに失敗したという意味ではありません。
豪州の導入3か月後の初期調査では、次のことが報告されています。
- 子どものアカウント保有は減っていた。
- 一方で、SNSの利用は続いていた。
- アカウントを持ち続けている理由として、年齢確認を求められていないという回答が最も多かった。
「子どもが巧妙な抜け道を次々に見つけたことが主因」という結果ではありません。
長期的な成否も、まだ判断する段階ではありません。(3)
今、分かっていることと、これから起きるかもしれないこと。
その二つを分けながら、考えたいと思っています。
そこで連想したのが、アメリカの禁酒法だった
禁止すれば、人の欲求まで消えるのだろうか。
SNSの規制を見ていて、私が連想したのは、1920〜1933年のアメリカの禁酒法でした。
当時、飲用酒の製造・販売・運搬などが禁じられました。
飲酒行為そのものを、すべて一律に禁じた制度とは少し違います。
その結果には、違う側面がありました。
酒の消費を減らした側面
消費量は減ったとされます。「何の効果もなかった」と片づけるのも違うでしょう。(4)密造・密売が続いた側面
酒の需要はなくならず、闇市場は、すでに存在していた犯罪組織が資金を得て、組織を大きくすることにもつながりました。(5)危険な酒による被害が生じた側面
メタノールの混ざった酒による死亡も起きています。メタノールは、失明などの深刻な中毒を起こしうる、有毒なアルコールです。(6)(7)
ここで言いたいのは、飲み手が「失明してもよい」と承知して選んだ、ということではありません。
禁止しても需要が残り、その需要を満たす経路が、安全とは限らないものになってしまう。
その可能性が気になります。
もちろん、酒とSNSは同じではない。
禁酒法を持ち出しただけで、SNS規制が失敗すると証明できるわけでもありません。
そのうえで、佐藤の仮説として、こう考えます。
使いたい気持ちを置き去りにした規制は、その行動をなくすだけでなく、見えにくい場所や、より安全性の低い経路へ押し出すこともあるのではないか。
規制によって減らせた害と、別のところに生じた害。
どちらか一方だけではなく、両方を見たいと思っています。
マクロでは国、ミクロでは家族
こうしたことを考えるきっかけの一つが、『映像の世紀バタフライエフェクト』の「脱出者たち 自由への逃走と闘争」でした。(8)
また、『家、ついて行ってイイですか?』で、親のしつけに耐えられず、若い頃に家を離れた人の話を見たことも重なりました。(9)
人は、国や法律に縛られることもあれば、親や家族、先祖から続く価値観に縛られることもある。
マクロでは国、ミクロでは家族。
規模は違っても、「ルールを決める側」と「その中で生きる側」がいる。
この構図には、重なるところがあるのではないでしょうか。
ただし、同じ仕組みとして扱えるわけではありません。
国と親では、権限も責任も違う。そこから離れる難しさも違います。
子どもの判断力は成長とともに変わるし、親の関わり方も、それに合わせて変わっていくはずです。
それでも、決める側にとってよいルールが、その中で生きる人にとってもちょうどよいとは限らない。
この点は共通している気がします。
私は今、日本から脱出したいとは思っていません。
それは、日本のルールを、自分にとってちょうどよいと受け止めているからなのか。
それとも、慣れや人間関係など、ルール以外のものも含めて、ここで暮らすことを選んでいるからなのか。
出ていきたいと思わないことと、すべてのルールに納得していることも、同じではなさそうです。
クレヨンしんちゃんを、医学部生になっても見ていた
私は子どもの頃から、クレヨンしんちゃんが好きでした。
医学部生になっても、録画して毎週見ていたくらいです。
当時は、今のようにTVerやNetflixで気軽に見たい番組を見る、という感覚ではなかったので、録画して楽しんでいました。
一方で、友達の中には「教育によくないから」と、家で見せてもらえなかった人もいました。
大人になって周りを見ると、いろいろな人がいます。
- 子どもの頃に見ていたけれど、大人になると自然に興味を失う人。
- 禁止されていたものを、あとから取り戻すように楽しんでいるように見える人。
- 私のように、大学生になっても楽しんでいた人。
そうした作品や表現を遠ざけられた人が、必ずしも、より立派な大人になっているようには見えない。
一様な話ではないところが、面白いと感じます。
ここから考えたのも、佐藤の仮説です。
子どもの頃に強く制限されたものが、自由に選べるようになったあと、かえって強く気になることはないのだろうか。
これは「禁止されたから、そうなった」と確認できた話ではありません。
もともと関心が強かったから、周囲が制限した可能性もある。
性格や家庭環境など、別の要因もあるでしょう。
それでも、目の前の「下品だから見せない」「ゲームだからやめさせる」だけでなく、その制限が将来どんな意味を持つかは、考えておきたい。
なお、大人になってアニメやゲームに夢中になること自体を、問題だと言いたいわけではありません。
楽しい趣味として続くことと、生活が苦しくなることは別の話です。
研究で分かることと、まだ仮説のままのこと
選ぶ自由を奪われたと感じると、それを取り戻したくなる。
心理学では、こうした心の動きを「心理的リアクタンス」と呼びます。
子どもだけの話でもありません。
大麻の使用経験がある成人を対象にした実験では、使用をやめるよう促す文面は、害を減らすことを促す文面よりも、強い反発感を引き起こしました。
ただし、その場で感じた反発と、その後の実際の行動は別です。長期的な結果まで確かめたわけではありません。(10)
子どものSNS利用についても、結果は単純ではありません。
2024年の研究では
親のルール設定や、その場での制止が、翌年の問題的なSNS利用を増やすとも減らすとも、はっきり示されませんでした。
一方で、子どもの問題的な利用が増えたあとに、親の関わり方が変わるという、逆方向の関連が見られました。(11)
2025年の別の研究では
ルールと、その後の問題的なSNS利用との関連は、子どもの年齢によって方向が異なりました。
これも「何歳になったら禁止は逆効果」と、一律の線を引ける結果ではありません。(12)
今回確認した研究だけでは、「子どもの頃の禁止が、大人になってからの熱中につながる」という長期的な流れまでは、確かめられていません。
だから、その考えを消すのではなく、今は仮説として置いておきます。
- 研究で確認されたこととして伝える部分。
- 自分の経験や仮説として伝える部分。
この二つを分けたい。
研究でまだ答えが出ていないことも、考え続けてよいと思っています。
あえて縛って、自由を求めさせるという発想もあるのか
ここまで考えると、少しひねった発想も浮かびます。
もし、将来、自由を求めて逃げたり闘ったりすること自体を狙うなら、あえて強く制限するという考え方もあり得るのかもしれない。
そこまで長期的に計算して、狙っている人がいるのかもしれません。
ただ、私は個人的には、そこまで考えて実行している人を知りません。
これは考えを広げるための想像であって、育児の推奨ではありません。
反発が起きることと、自分で選び、判断する力が育つことは別です。
思い描いた方向に進むとも限りません。
あとから何か意味が見つかる可能性と、最初からその負担や害を与えてよいかどうかも、分けて考えたいと思っています。
歴史を「パクってカスタマイズ」するときにも
今、そのルールを作ったら、何が起きるのか。
すぐに変わることと、何年かあとに起きること。
そこを考える材料として、過去や歴史をもっと使えたら面白いと思っています。
AIのおかげで、昔の出来事にアクセスして、「パクって、今に合わせてカスタマイズする」入口は、ずいぶん広がったと感じます。
ただ、似た出来事を一つ見つけたら、それが答えになるわけではありません。
禁酒法にも、消費を減らした側面と、密売などの問題があった。
強い制限があっても、反発する人ばかりとは限らない。
自分の考えに都合のよい歴史だけを集めると、結論を正当化するための物語になってしまう。
だから、こんなところを見比べたいと思っています。
- 似ているところと、違うところ
- 短期的に得られたものと、長期的に失ったもの
- うまくいった例と、そうならなかった例
どちらも見ながら、今の状況に合うかを考えたいと思います。

ルールを守らせたあとに、何が残るか
子どもに何でも見せればよい、とは思っていません。
今の段階では受け止めきれないものや、すぐに避けたほうがよい危険もあるでしょう。
一方で、守ろうとするあまり、自分で選ぶ経験や、困ったときに相談できる関係まで狭めていないかは、気になります。
「何を禁止するか」に加えて、こんなことも考えておきたい。
- 何から守るためのルールなのか。
- 守れたあとに、どんな力や関係が残ってほしいのか。
- 成長や状況の変化に合わせて、いつ見直せるのか。
大人が安心するためのルール。
その人が安全に、自分で選んで生きるためのルール。
重なるところもあれば、少し違うところもあるのかもしれません。
親として、子として、一人の人間として。
今は、ちょうどいいルールを決めきることより、決めたルールを考え直せる余地を残しておきたい。
未来の自分が読み返したら、違うことを考えているかもしれません。
そのときは、その違いも含めて残せたらいいなと思っています。
参考文献・番組
eSafety Commissioner. Social media ‘ban’ or delay FAQ
豪州の制度概要。European Commission. EU KIDS Act: helping children navigate a safer online world(2026年9月17日)
成立済みの法律ではなく提案。eSafety Commissioner. Early days, early insights: three-month follow-up
SNS年齢制限の導入初期の評価。U.S. National Archives. The Volstead Act
禁酒法とその影響についての教材・史料案内。Lawson EN. Smugglers, Bootleggers, Scofflaws. Prologue, 2011.
ニューヨークを中心とした密輸・密売の史料研究。American Chemical Society. Methanol
禁酒期のメタノール混入酒による被害の解説。CDC/NIOSH. Methanol: Systemic Agent
メタノールの毒性情報。NHK. 映像の世紀バタフライエフェクト「脱出者たち 自由への逃走と闘争」
2026年10月5日放送。テレビ東京. 家、ついて行ってイイですか? 深夜SP
2026年10月10日深夜放送。TVerの該当回は、配信終了等により閲覧できなくなる場合があります。Slavin MN, Earleywine M. Effects of Messaging and Psychological Reactance on Marijuana Craving. 2019.
成人の反発感などを調べた実験。Geurts SM, et al. Bidirectional Within-Family Effects of Restrictive Mediation Practices and Adolescents’ Problematic Social Media Use. 2024.
親の関わり方と子どものSNS利用を追跡した研究。Geurts SM, et al. Parental Internet-Specific Rules and the Onset of Adolescents’ Problematic Social Media Use. 2025.
ルールとSNS利用との関連を、年齢などの違いも含めて調べた研究。
資料確認日:2026年10月16日。
本文には、確認した事実・研究の紹介と、筆者の経験・仮説が含まれます。
4コマは架空の場面です。
佐藤将人
